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宮田研究室は機械工学科に所属する研究室でありながら,研究対象を細胞や生体組織に据え,医療や生命現象の解明を目的とした研究を行っています.ヒトに代表される生物を扱う学術分野はもちろん医学や生物学がその本流でありますが,細胞やタンパク質を生物を構成する部品と捉えれば,生物は極めて精緻なキカイ(機械)と考えることもできます.

宮田研究室では,生物をキカイと捉えて,工学的なアプローチで再生医療,ガンの生理学,創薬に資する研究開発を行うことをミッションとしています.皆さんもぜひ我々とともに生物学・医学と工学の境界領域の学術分野に触れてみませんか.

Research

メカノバイオロジー(Mechanobiology)

癌のメカノバイオロジー

人間の身体は常に重力や圧縮,引っ張り,せん断などの様々な力学的な負荷に晒されています.近年,身体を構成する最小単位である細胞が多くの力学的な環境に適応し,多様な機能を発現させることが分かって来ました.このように,物理的因子が細胞の運命に及ぼす影響を研究するという新たな学術領域を「メカノバイオロジー 」と呼びます.
従来のメカノバイオロジーでは,骨や血管など常に大きな力学的刺激が加わる部位を対象としてきていましたが,最新の研究によって癌細胞などの骨や血管に比べて比較的小さい力学的刺激を受ける細胞にも,力を敏感に感知する機構が存在し,ダイナミックにその運命を変化させることが分かってきました.
宮田研究室では,「癌のメカノバイオロジー」をテーマとして,皮膚の癌であるメラノーマや乳癌,骨肉腫などの不規則な力学的刺激に晒される癌細胞を対象に,力学的刺激を加えながら細胞を三次元的に培養して,さらに経時的に細胞の挙動を観察できる新たな培養装置を独自に開発しています.このような市販の培養装置では不可能な培養環境を実現できる装置を独自に開発することで,癌細胞と力学的刺激の因果関係を解き明かす研究を進めています.

参考文献
Morikura, T. and Miyata, S. Effect of Mechanical Compression on Invasion Process of Malignant Melanoma Using In Vitro Three-Dimensional Cell Culture Device. Micromachines, Vol.10, No.10, [666] (2019).

文献リンク
https://www.mdpi.com/2072-666X/10/10/666

皮膚のメカノバイオロジー

収縮力センシングデバイス

私たちの身体を覆う皮膚は,人体最大の臓器であり外部刺激から私達を守るはたらきをしています.その一方,皮膚は外部に露出している臓器であることから私たちの外観の大部分を担っています.私たちがハリのある健康的な外観を損なう原因としてはシワの形成や皮膚疾患が考えられますが,その多くは皮膚の収縮力の異常に起因します.皮膚の研究ではコラーゲンに皮膚由来の細胞を包埋した皮膚モデルが広く用いられますが,細胞の発生させる力は微小であるため収縮力の測定には工夫が必要になります.宮田研究室では機械工学的なアプローチを用いて,細胞培養に適した高湿度下においても細胞の生み出す力を測定可能なデバイスの開発を行っています.開発されたデバイスは紫外線などの刺激が収縮力に与える影響の調査や,創薬スクリーニングに役立てられると考えられます.

心筋再生のメカノバイオロジー

心疾患は死因の15 %を占めるほど,他の病気よりも高い死亡率です.心筋梗塞などの心臓損傷は筋肉の減少と関係して収縮能力を失います.従来の薬物療法などは,筋肉不足の根本的な解決策にはなっていないため,治療法が移植療法に頼らざるを得ません.このような課題を解決するために,iPS細胞を用いた心筋再生に注目が集まっています.心筋の再生医療では,細胞はコラーゲンゲルに含有された三次元ブロック体,シート形状,細胞凝集体などの形態で培養され三次元的な心筋組織を再生します.しかしながら,既存の培養法では再生された心筋組織は未成熟であるため,拍動力に代表される生理学的な機能は生体内の心筋組織と比較すると遠く及ばないのが現状です.宮田研究室では心筋の再生医療を実現するためには再生新規組織の成熟化が重要との視点に立ち,細胞を生体内の心筋組織に近い三次元構造を成すように構造化し,さらに培養体に対して引張,せん断,電気刺激といった物理的刺激を印加させながら培養することで再生心筋組織の成熟化を目指しています.心筋組織の構造を模倣するために心筋や骨格筋由来の細胞をゲルファイバ内に包埋してファイバ形態の培養体を構成し,心臓の拍動や運動による変形を模擬した引張刺激,電気刺激を印加することで,筋組織の成熟化を進めています.

参考文献
Shinako Bansai, Takashi Morikura, Hiroaki Onoe and Shogo Miyata, Effect of Cyclic Stretch on Tissue Maturation in Myoblast-laden Hydrogel Fiber, micromachines, Vol.15, No.10,[6] (2019).

文献リンク
https://www.mdpi.com/2072-666X/10/6/399

細胞工学(Cell Engineering)

創薬スクリーニングのための細胞チップ

脂肪細胞チップ

体内に存在する脂肪細胞は肥満やメタボリックシンドローム等の疾患と関連しており,病理解明のためには脂肪細胞の生化学的活動に関する研究が重要となります.一般的に細胞の性質を評価するためには観察したい器官を染色する必要がありますが,複雑な操作を伴います.そこで,宮田研究室では脂肪細胞に交流電圧を印加して電気的特性をモニタリングすることで簡便に脂肪細胞の性質を評価する手法の確立を目指しています.生体内の環境を再現するために脂肪細胞はハイドロゲルに包埋して三次元的に培養を行います.このゲル内の脂肪細胞に交流電圧を印加するため,内部に2本の白金線を配置可能なデバイスを開発しました.開発したデバイスを用いて脂肪細胞を培養しながら経時的に電気的特性を測定することで,複数の複素周波数を用いることで脂肪細胞内部の脂肪滴(脂肪が集まってできた油滴)の蓄積量を評価することができました.このデバイスにより,電気的特性の測定に基づいた本手法が従来の染色法に変わる新たな脂肪細胞の性質の評価法となることが期待できます.

参考文献
Zemmyo, D. and Miyata, S., Evaluation of Lipid Accumulation Using Electrical Impedance Measurement under Three-Dimensional Culture Condition, micromachies, Vol.10, No.7,[455] (2019).

文献リンク
https://www.mdpi.com/2072-666X/10/10/666